日米交流
Japan-US Encounters Website
History of Japan-US Relations in the period of late 1700s and 1900s

 

パンペリーのユーラップ鉱山報告
(”「パンペリー遊楽部調査報告」 (原文書の画像)、北海道大学附属図書館北方資料室” より訳出)

二回目の探査旅行が終わり箱館に帰った後、再度ユーラップ鉛鉱山を訪れたパンペリーは、鉱夫たちに鉛鉱石を掘る坑道内で発破の掛け方を指導し、非常に満足できる結果だったと箱館奉行・糟谷筑後守に報告した。いわく、

糟谷筑後守様

拝啓、

私は昨日ユーラップ鉱山から帰りましたが、報告が少々遅延しましたお詫びと共に帰箱の報告を致します。

私がユーラップに行った目的が二つあった事はご存知の通りです。先ず第一は発破方法の教授であり、第二は出来るだけ広い鉱山周辺や鉱山の中を正確に調査する事でした。調査の主眼点は、中山坑道の排水溝の最良位置決定と、一番低い横坑道の下に採鉱場を開くため、縦坑の最良位置決定とをする事でした。

発破方法の指導は誠に上首尾でした。工具が少数であった関係で、南沢と、有沢岡の古い坑道の中の二ヶ所だけでの発破の実施でした。この南沢では、28日間で坑道を13フィート(又は尺)掘り進み、高さは5尺半で幅は4尺です。すなわち28日間で286立方尺の岩石を採掘した事になり、5日間では51立方尺です。− 同じ岩を日本で通常行われる方法で同じ人数の鉱夫で掘れば、5日間で24.75立方尺の採掘量となりましょう。

有沢ではユーラップ鉱山に見られる最も硬い岩の掘削でしたが、発破方式は旧方式の3から4倍の採掘量となりました。

この様に、鉱夫たちは今習得したばかりのやり方でも、今まで何年もやり慣れた方法に比べ、この方式と道具で2倍から4倍の速さで採掘量を増やせるわけです。

やがて発破を掛ける方法を完全に身につけた鉱夫たちは、相当な量の採掘をこなせるようになりましょう。

鉱山の調査に関しては、一部分が出来たばかりです。

ここで次のように、鉱夫たちの不注意や無謀なやり方を防止するために必要な規則を提出させていただきます。

−発破実施時の規則−

  1. 火薬を包装なしで穴に入れてはならない。常に薬莢(やっきょう)に詰めて使用のこと。
  2. 薬莢は木製の棒で穴の底まで入れること。如何なる場合も鉄製の棒を使用してはならない。
  3. 穴を塞ぐ粘土には、火花を散らすような石が混ざってはならない。
  4. 粘土で塞ぐ時は、銅か真鍮が先に付いた専用の棒で行うこと。
  5. 穴に火薬を詰め導火線を取り付けるときは、付近で竹(筆者注:竹松明か)を燃やしてはならない。
  6. 期待した時間内に火薬が爆発しなかった場合、通常導火線に点火して爆発が起る間隔の少なくとも8倍から10倍の時間が経たずして、仕掛けた場所に近づいてはならない。
  7. 誰といえども、一旦不発になった火薬穴を再度穿孔したり穴を塞いだりしてはならない。
  8. 正しく発火し爆発し、遅延が起きないようにするため、火薬と導火線は常に乾燥した場所に保管すること。

お奉行様の熟慮のために提出するこの規則は、人命が損じられないために重要なことで、私が必ずなすべき義務と考えています。そして、直ちにユーラップ鉱山へ命ぜられる必要性をお分かり頂けるものと確信致します。

尊敬と礼儀を以て、敬具
ラファエル・パンペリー
日本派遣の鉱山技師・地質学者

1862年11月21日、箱館にて。

この1862年11月21日付け、即ち文久2年9月30日付けの報告書にある発破は、おそらく黒色火薬を使った発破であったろう。この黒色火薬は炎や摩擦、静電気や衝撃に敏感だからその取り扱いに細心の注意が必要で、また吸湿性が高いからその保管は重要な管理項目だった。この様に、発破を仕掛ける手順のみならず、特に作業の安全に力を入れて指導したが、こんな細心の注意が鉱山作業の基本であるとする事は、疑いもなくその後の成功の秘訣であったわけだ。ちなみに、アルフレッド・ノーベルがダイナマイトを発明したのは、この報告書の4年後の1866年である。

また発破を仕掛けた二ヵ所の中の一つ 「有沢岡の古い坑道の中」 は、英語原文が 「the Ancient Gallery of Arisawa Oka」 と記述されている様に、この鉱山は古くから開発されていたものだった。採掘の始まりは1674(延宝2)年と聞くが、安定政権を確立し始めた第4代将軍・徳川家綱の時代である。この当時、1669(寛文9)年に日高の酋長・シャクシャインが蜂起して松前泰広軍と戦い、平定された直後である。松前軍は幕府からの支援で多くの鉄砲を持って戦ったが、その直後から弾丸用の鉛の供給地として開発されたのだろう。

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07/04/2015, (Original since 12/20/2010)